INSIGHTS / China Management · Governance · Organization
「In China, For China」—— For Who?
中国事業について、「現地化」「意思決定の迅速化」「In China, For China」という言葉を目にするようになって久しい。
では、日本企業の中国現地化とは、一体何を現地化することなのだろうか。
法人の所在地だろうか。
従業員の国籍だろうか。
中国人管理職の人数だろうか。
それとも、本当に「経営」なのだろうか。
中国企業が最大の競争相手。それはもう分かっている
JETROの2025年度「海外進出日系企業実態調査(中国編)」では、在中国日系企業の74.5%が中国企業を最大の競争相手と回答している。[1]
また、中国企業との比較では、業種によって、「経営判断(意思決定)の早さ」「市場のニーズやスピードに適した製品・サービスの開発力」「市場投入までの速さ」などを自社の弱みとして認識する傾向もみられる。[2]
つまり、日本企業は競争相手が誰なのかも、その相手がどこで強いのかも、すでにある程度分かっている。
問題を知らないわけではない。
中国市場は速い。
現地で判断する必要がある。
中国企業との競争では意思決定のスピードが重要である。
ここまでは、もう十分に語られている。
ところが、実際の採用市場を見ると、少し不思議な光景がある。
それでも、経営人材は日本から中国へ送られる
現在公開されている求人の中には、中国工場の総経理候補を日本本社で採用し、6カ月から1年程度の本社研修を経て、中国子会社へ赴任させるものがある。[3]
別の求人では、まず日本本社で3カ月から半年勤務した後、上海法人へ赴任し、現地の営業組織をマネジメントする。その先のキャリアとして、総経理への就任が明記されている。[4]
さらに興味深いのは、その現地法人では、総経理以外の社員は現地採用だという点である。
もちろん、数件の求人だけで日本企業全体を一般化することはできない。
ただ、こうした求人を見ていると、一つの問いが浮かぶ。
なぜ「中国で経営できる人」を中国で探すより、「本社が理解できる人」を日本で育てて中国へ送る、という発想が今も残っているのだろうか。
本社が求めているのは「能力」なのか
もちろん、日本本社が中国法人を管理する必要はある。
ガバナンスも必要だ。
内部統制も必要だ。
グループ戦略との整合も必要だ。
だから、本社の考え方を理解する人材を中国法人に置きたい。
この判断自体は理解できる。
しかし、もし最も重要なのが「中国で経営できる能力」であるなら、なぜその人材を中国市場から探すより、本社で採用し、本社で育成し、中国へ送る仕組みが繰り返し現れるのだろうか。
本社が選んでいるのは、本当に「中国で経営する能力」なのだろうか。
それとも、そこにはもう一つ、「本社から見て理解しやすい、管理しやすい、安心して任せられる」という条件が含まれているのだろうか。
中国事業は、何のためにあるのか
現在公開されている別の求人を見ると、その「本社とのつながり」が、人材のキャリアそのものに組み込まれている例もある。
日本本社で研修した後、中国・上海の販売会社へ赴任する。現地では経営管理、財務、法務、人事、総務、ITなどを横断的に担い、現地採用社員をマネジメントする。
赴任期間は通常3~5年。
さらに、赴任中も一時帰国時に派遣元とのキャリア面談が行われ、帰任後は経営統轄部、事業管理、経営戦略などの本社部門、あるいは別の海外拠点への異動がキャリアパスとして示されている。[5]
これは、合理的な人材育成の仕組みでもある。
海外事業を経験した人材が本社へ戻り、その経験をグループ経営に生かす。それ自体に問題があるわけではない。
ただ、見方を変えると、一つ問いが生まれる。
これは「中国事業のために人材を育てている」のか。
それとも、
「本社のために、中国事業で人材を育てている」のか。
この二つは、似ているようで同じではない。
中国市場を、本社の次世代経営人材を育てる重要な場として位置づける。
それも確かに、「中国市場を重視する」一つの形なのかもしれない。
しかし、中国法人で経営を担う人の長期的なキャリア、評価、次のポストが日本本社にあり、数年後に戻ることがあらかじめ設計されているのであれば、一つの問いは残る。
中国法人にとって最善の判断と、本社から高く評価される判断が一致しないとき、その人はどちらを見て意思決定するように設計されているのだろうか。
これは、駐在員個人の誠実さの問題ではない。
キャリアと評価をどこに置くかという、組織設計の問題である。
そして、もう一つある。
中国企業にとって、中国市場は経営人材の研修先ではない。
そこで事業を伸ばし、競争に勝ち、生き残るための市場そのものである。
だとすれば、日本企業が中国法人の経営ポストを本社人材の育成過程にも組み込むとき、中国市場を主戦場として経営する相手と、本当に同じ条件で戦っていると言えるのだろうか。
しかし、問題は「日本人」であることではない
ここまで書くと、「では、中国法人は中国人に任せればいい」という話に見えるかもしれない。
しかし、私はそうは考えていない。
中国人だから中国市場を理解できる、という考え方も危険だ。
私自身、2020年のロックダウン解除後、売上が急増した日系小売企業で、約16店舗から100拠点規模への拡大が検討された経験がある。
当時、中国人のマーケティング責任者も「市場は成長している」と判断し、拡大方針に賛成していた。
私は逆の判断をした。
中国の婚姻登録数の長期低下、婚礼需要に偏った商品構成、そしてロックダウン中に先送りされた需要が一時的に顕在化した可能性を見て、短期的な売上増加をそのまま長期的な市場成長とみなすべきではないと考えた。
そこで、店舗数の急拡大よりも、若年女性向け商品の拡充、日常使い商品の開発、既存店舗のより良い立地確保を優先する案を提出した。
提案は当時採用されず、会社はその後約22店舗まで拡大し、売上は大幅に減少した。
国籍は、現地市場への洞察力を保証しない。
そして、現地化とは、日本の仕組みを捨てて中国企業を真似することでもない。
別の日系小売企業の人材制度改革では、私は単純に「中国式」の個人歩合制度を導入しなかった。
日本企業が大切にしていたチーム重視の考え方を残しながら、中国現地の人材行動を分析し、インセンティブ、評価、キャリアの仕組みを再設計した。
実装後、次の約10人の高業績者コホートでは、離職率が80%から40%へ低下し、定着率は20%から60%へ上昇した。
この二つの経験から、少なくとも私は、現地化を「誰を置くか」だけの問題だとは考えていない。
必要なのは「日本人」か「中国人」かではない。
中国市場を理解し、中国組織の現実を理解し、本社が実現したいことを、現地で本当に機能する形へ変換できる人材ではないだろうか。
そして、その人材を本社が信頼できるかどうかを、国籍や「本社出身」で担保する必要もないはずだ。
情報が透明であること。
権限の境界が明確であること。
重要事項のエスカレーションルールがあること。
判断の根拠と結果を検証できること。
経済産業省のグループ・ガバナンスに関する実務指針でも、海外子会社を含むグループ管理について、権限配分、モニタリング、共通ルールなど、仕組みによるガバナンスの重要性が示されている。[6]
「日本人を一人置けば安心」という状態より、誰が経営しても本社から必要なものが見える状態をつくる。
その方が、ガバナンスとしては強いのではないだろうか。
現地化とは、日本の仕組みを捨てることでも、中国人に置き換えることでもない。
本社が実現したいことを理解し、それが中国という市場と組織の中で本当に機能する形に落とし込むこと。
私は、その方が「In China, For China」という言葉に近いと思う。
中国市場に、本気で向き合ってみたら
日本企業は、中国法人を昨日作ったわけではない。
何十年も中国で事業を行い、中国人を採用し、中国人管理職を育成し、「現地化」を語ってきた。
それでも現在、中国企業が最大の競争相手となり、業種によっては、意思決定、市場適応、市場投入スピードなどに弱みを感じている。[1][2]
だからこそ、一度問い直してみる余地があるのではないだろうか。
誰を中国へ送るのか。
その人に何を任せるのか。
その人は誰の評価を見て意思決定するのか。
そして、次の経営者をどこから生み出すのか。
中国企業と腕相撲をするのであれば、相手の腕力を研究するだけでは足りない。
そろそろ、自分たちの腕をきちんと見直し、本当に勝負できるだけの力があるのかを確かめた方がいいのではないだろうか。
「In China, For China」を掲げるのであれば、本当に問うべきなのは、法人の所在地でも、従業員の国籍でも、中国人管理職の人数でもない。
「経営」そのものではないだろうか。
出典
公開情報
各出典は、本文で触れた事実を確認できる公開ページにリンクしています。
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カシオ計算機株式会社
海外駐在/中国赴任・海外販売会社の経営管理者
日本本社での研修後、中国・上海の海外販売会社へ赴任。通常3~5年の赴任期間、現地採用社員の管理、駐在中のキャリア面談、帰任後または他国拠点への異動の選択肢を示す求人。
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